NDCの登場は旅行業界をどう変えるか【第3回】航空会社はNDC活用に積極的か、消極的か

written by:INFINI LOOKUP編集部

航空券流通に数十年ぶりの大きな変革をもたらすとも言われる「NDC(New Distribution Capability)」。NDCをめぐる動きはここ数年加速しつつあり、旅行業界でもNDCへの対応を検討すべき時は近づいているようです。

第1回、第2回記事では、航空業界が中心となって策定したNDCの狙いや、その技術的な特徴を紹介しました。それでは実際の航空/旅行業界ではNDC対応がどのように進んでいるのでしょうか。今回はまず航空業界における現在の動きを見てみます。

■NDC活用に積極的な航空会社:ルフトハンザグループの例

2012年のNDC策定以後、航空業界の中でNDC活用に積極的な動きを見せているのがルフトハンザグループ(ルフトハンザドイツ航空、オーストリア航空、ブリュッセル航空、スイスインターナショナルエアラインズ)です。“NDC積極派”の動向を知るために、ここではルフトハンザグループの取り組みを見ていきます。

ルフトハンザグループはIATAにおけるNDC策定プロジェクトの初期メンバーであり、2017年にはIATA NDC認証の最高レベル(レベル3-Offer & Order Management)も取得しています。さらに現在ではグループ各社が、積極的なNDC活用を目指す航空会社の団体「NDC Leaderboard」(図1)に名を連ねています。このNDC Leaderboardは、NDC認証のレベル3を取得した航空会社で構成されており、2020年ごろをめどに「参加各社における航空券売上の20%以上をNDC経由にすること」を目標に掲げています。

図1:NDCの積極活用を目指す「NDC Leaderboard」(IATAサイトより)。現在は21社が参加
図1:NDCの積極活用を目指す「NDC Leaderboard」(IATAサイトより)。現在は21社が参加

 

ルフトハンザグループでも、航空券の販売にはGDSとNDCとを併用しています。前回記事で説明したとおり、NDCはまだ十分には普及しておらず、航空券の大部分は従来どおりGDS経由で流通しています。したがって、いきなりNDCだけに切り替えることはできませんでした。

ただしこのままでは、いつまで経ってもGDSからNDCへの移行が進みません。そこでルフトハンザグループでは、NDCを利用する顧客に対して有利な料金設定を行う戦略をとりました。

まず2015年9月には、グループ傘下の航空会社で、旅行会社などがGDS経由で購入する航空券に対して1件あたり16ユーロ(2,180円)の付加手数料となる「DCC(Distribution Cost Charge)」を設定しました。同グループの説明によれば、GDSの利用に「年間で数億ユーロ単位」のコストがかかっているため、そのコスト負担を旅行会社や旅行者に転嫁したわけです。一方でグループ各社のWebサイトや窓口、NDCシステム経由で購入する場合には、このDCCを徴収せず、GDSよりも価格面で有利になります。

この動きと並行して、ルフトハンザグループでは「ダイレクトコネクトパートナー」拡大の取り組みもスタートしました。これは、IATA公認旅行会社やアグリゲーター、旅行業界向けITプロバイダーに対し、ルフトハンザグループのシステムへの直接接続サービスを提供するもので、パートナー各社はNDC API経由で航空券を予約/購入/発券できます。ここでルフトハンザグループはダイレクトコネクト経由、つまりNDC経由でのみ購入できる低価格航空券やアンシラリーサービスの提供を始めました。これも価格面でNDCを有利にし、NDCの利用を促進するための戦略です。

図2:LHを例としたNDC接続方法
図2:LHを例としたNDC接続方法

 

ちなみにNDC経由でのアクセス手段としては、上述したダイレクトコネクト(図2:①)だけでなく、フェアロジックス社が提供するNDC手配も可能なWEBサイト「SPRK(スパーク)(図2:②)」ベースのルフトハンザ専用サイト、そしてルフトハンザと契約を結んでいるアグリゲーター経由(図2:③)があります。

ただし前回記事でも説明したとおり、“1対1”接続のダイレクトコネクト(図2:①)は多額のシステム改修コストがかかることが懸念されます。また、ルフトハンザ専用サイト(図2:②)では他の航空会社の航空券との比較検討が十分にできません。実務的には今後もGDSと併用しなければならないことを考えると、ほとんどの旅行会社ではアグリゲーター経由(図2:③)で、GDSとNDCが統合されたシステムを使ってやり取りするのが“現実解”と言えそうです。

なおルフトハンザグループでは今年7月、パートナーに限らず自由に使えるオープンAPIの機能を拡充し、さまざまなWebサイトやアプリが航空券の予約機能を組み込めるようにしました。また今年9月には、「NDCパートナープログラム」を日本でも拡大すると発表し、新たなWebサイトを開設しました。このプログラムは旅行会社や旅行関連ITプロバイダーに対してNDC採用を促すもので、今後は日本市場向けにもNDC関連のWebコンテンツ提供やパートナーへの技術トレーニングなどを展開していくとしています。

ルフトハンザグループ「NDCパートナープログラム」のWebサイト(lhgroupairlines.com)
ルフトハンザグループ「NDCパートナープログラム」のWebサイト(lhgroupairlines.com)

 

■ただし”様子見”の航空会社が現時点では多い現状も

ここまでは、NDC活用に積極的な航空会社の例としてルフトハンザグループの動きを見てきました。ルフトハンザグループと同じように、NDC Leaderboardに参加するそのほかの航空会社でもGDS手数料の徴収(あるいはNDCへの販売報奨金付与)、NDC経由でのみ販売する低価格航空券やアンシラリーサービスの設定、旅行会社システム接続用APIや専用サイトの提供といった動きが出てきています(アメリカン航空、エールフランス航空/KLMオランダ航空、ブリティッシュ・エアウェイズ/イベリア航空など)。

NDCをめぐる報道では、こうした強気な戦略をとる航空会社の動向がどうしても目立つことになります。しかし、そうした戦略をとれるのは一部の大手航空会社だけでしょう。NDCを採用するためには、航空会社側でも多額のシステム開発投資が必要となります。さらに、現状で旅行会社経由での販売比率が高い航空会社の場合は、NDC対応を旅行会社に強いるわけにはいかず、むしろ旅行会社が対応するのを「待つ」立場にならざるを得ません。

したがって、すべての航空会社が一様に積極的というわけではありません。IATAのNDC認証を受けている航空会社がまだ少数派であることからもわかるように、大多数の航空会社は市場全体の動きを見ながら、今後どのタイミングでNDCを採用するのか(またはしないのか)を検討している段階だと言えます。

またNDCを「補完的に」採用する戦略の航空会社もあるようです。NDCを通じて多様なアンシラリーサービスの情報を旅行客に伝え、旅行会社で航空券と同時に販売することができるようになります。そこで航空券は従来どおりGDS経由で販売を行い、販売を強化したいアンシラリーサービスの部分にNDCを使うわけです。IATAのNDC認証を見ると、「アンシラリーサービスの手配だけ」というNDC対応レベル(レベル1)が用意されていますから、もともとこうした補完的な採用形態も想定されていたものです。

いずれにせよ航空会社側のNDC戦略は、会社規模や市場での位置付け、さらには市場全体の動きに左右されるものであり、現状では各社間で大きな乖離ができてしまっています。それに対応する旅行会社のほうでも、なかなか簡単には判断しづらいのが現状だと言えます。

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