インフィニ トラベル インフォメーション(インフィニ)では今年(2018年)6月、NDC対応のプロダクト構想を発表しました。日本市場でご愛用いただいているインフィニ製品において、航空会社が提供し始めているNDC対応コンテンツを順次利用可能にしていくという内容です。
今回は連載「NDCの登場は旅行業界をどう変えるか」の最終回として、国内の旅行会社や航空会社におけるNDCへの反応、さらにインフィニにおける現在の取り組みや将来的なビジョンをまとめます。
■旅行会社にとっては判断の難しいNDCへの対応
NDCへの対応をどうすべきなのか、旅行会社の皆さんの多くはまだ「迷っている」のが実情ではないでしょうか。
NDCはシステム間の通信言語なので、もともとWebシステム経由で航空券販売を行ってきたOTAのような新興旅行会社ならば、NDCとの親和性も高そうです。しかし、多くの旅行会社にとって旅行手配は「オンライン」だけではありません。さらに、まだ航空会社側の取り組みもまちまちなNDCは、積極的に対応するだけのメリットが見出しにくいのが現状です。その一方で、システムや業務内容をNDC対応に変えるためのコストは確実にかかります。
それでも、いずれはNDC対応に踏み切らなければならない時が来そうです。今後数年のうちに、国内/海外の航空会社が次々にNDCコンテンツの提供を始めることが見込まれており、現在はすでに、「いつ」「どのように」NDC対応を進めるのがベストなのかを検討すべき段階に来ていると言えます。
あらためて航空会社の動きを確認しておきましょう。まず海外では、欧州や北米を中心として老舗の大手航空会社がNDC対応を始めています。
前回記事でもご紹介したとおり、欧州を拠点とするルフトハンザグループではGDS経由の航空券に付加手数料を設定しましたが、同グループはNDCを推進するために、ある“優遇策”を打ち出しています。たとえばNDC経由で手配した往復航空券には20ユーロの割引、アンシラリーサービスの事前座席指定には5ユーロの割引が適用されます(ウィーン、マドリッド、ストックホルム発着路線)。ただし日本での導入は未定というのが実情のようです。
他方で、米国拠点のアメリカン航空は、旅行会社のNDC利用にコミッション(報奨金)を支払う仕組みをスタートさせています。具体的には、NDC経由で航空券を手配すると1区間あたり2ドルのコミッションが支払われます(日本市場も対象)。つまりルフトハンザ、アメリカンとも、NDCの利用をお金の面から促そうという動きです。
こうした優遇策をとらない航空会社でも、より細かな席種に分かれた事前座席指定や座席アップグレード、追加手荷物、機内Wi-FiなどのアンシラリーサービスをNDC経由で販売開始したり、その検討を開始するところは出てきています。
日本国内の航空会社はどうでしょうか。国内大手航空会社はまだ、NDC経由での航空券販売やアンシラリー販売をスタートしていません。欧州や北米の市場と比べて日本市場は旅行会社経由での販売割合が高いため、NDC仕様が策定されても日本の手配運用に合わないため、すぐに動く必要がなかったのがその一因でしょう。
ただし、国内市場でも運賃競争の激しさは他国と変わらず、さらなる売上拡大のためには多様なアンシラリーサービスを開発し、販売したいのが本音です。したがって、航空券は従来どおりGDS経由で旅行会社に流通させる一方で、複雑な運賃や豊富なアンシラリーサービスを扱えるNDCを「併用」していくことには前向きのようです。
たとえばANAグループでは、2018~2022年度の中期経営戦略の中で「エアライン収益基盤の拡充」を掲げ、特に150%成長を目指す国際線旅客事業においては「競争力ある新たなプロダクト・サービスを順次展開」していく方針だとしています。そしてANAの平子裕志社長は、IATAサイトのインタビューにおいて「イノベーティブなプロダクトの販売/流通においてはNDCが大きな鍵となる」「NDC仕様の動向を注意深く見守っている」(原文は英語)と述べており、遠くない将来、販売プロダクトの拡大と歩を合わせてNDC採用が始まるのは間違いなさそうです。
■GDSとNDCを併用する時代の始まり、GDSはどう進化するのか
GDSとNDCを併用する時代がやってくるならば、注目すべきはGDSの動きでしょう。これまで長年にわたり航空会社と旅行会社の間をつないできた実績を持つGDSは、NDCについてどう動いているのでしょうか。
これまで何度か触れてきたとおり、NDCの世界では旅行会社が航空会社と“1対1”のダイレクトコネクトを行うことも可能ですが、システム改修やメンテナンスのコスト、個別の契約手続きなどが生じます。今後さらにNDC対応航空会社が増えることを考えると、“1対1”は現実的ではないと言えるでしょう。そこで、複数航空会社とのNDC接続を取りまとめる仲介役=「アグリゲーター」が重要な役割を果たすことになります。(【第2回】 NDCの技術的背景と旅行会社の対応)
旅行会社としては、これまで長い取引実績のあるGDSにアグリゲーター役を期待するところでしょう。GDSならば航空/旅行の両業界について知見やノウハウを持っており、技術的な実績も豊富だからです。
加えて、旅行会社としては引き続き航空券手配にGDSも使う必要がありますから、GDSとNDCがシームレスに統合されたシステムの提供が望ましいでしょう。既存のGDSシステムがNDCにも追加対応するかたちであれば、業務手順の変更もシステム対応コストも最小限で済むからです。こうした顧客の声に呼応して、GDS業界ではIATAのNDC認証を受け、アグリゲーターとしてのサービスを開始する動きが出てきています。
■「日本市場に合ったNDCのあり方」を考えるインフィニ
それではインフィニはどうでしょうか。今年6月に発表した内容をもとに、NDC対応の方向性を見てみましょう。
インフィニでは「INFINI HOST-LINK」および「INFINI LINX PLUS」において、NDC対応航空会社のコンテンツ手配機能を搭載していきます。このNDC機能については、英国のTravelfusion社と共同開発を行います。インフィニとTravelfusionとは2014年からシステム協力関係にあり、これまでに「INFINI LCC Search」などのプロダクトを共同開発してきた実績があります。
Travelfusionは、2016年にアグリゲーターとしてレベル3のIATA NDC認証を受けており、欧州を中心とした航空会社22社のNDCコンテンツ手配に対応しています。この機能をINFINI LINX PLUSやINFINI HOST-LINKへ組み込むことにより、GDSを使ったこれまでの現場業務を大きく変えないかたちで新たなNDCコンテンツ手配も可能にしていく方針です。
インフィニ社内では「NDCプロジェクトチーム」も発足しました。製品企画から開発、マーケティング、カスタマーサポートまで、幅広い部門メンバーが組織横断的に集まり、NDCにまつわる最新動向を研究して、それを製品やサービスにどう生かしていくのかを議論しています。
ここで特に大切にしていることが「日本市場に合った」NDCのあり方とは、という視点です。これまで30年近くにわたって日本のお客様と共に積み重ねてきた経験とノウハウを、これから始まるNDCの世界でも発展的に生かし、日本市場の実情にフィットしたNDCシステム、サービスを、航空会社と旅行会社の“橋渡し役”として考えていきます。
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以上、これまで4回にわたってNDCを取り巻く航空/旅行業界の動きを見てきました。
最後になりますが、「NDCの登場」という出来事は、航空/旅行業界を取り巻く大きな変化の一部分にすぎないことも忘れてはならないと思います。NDCという新たな仕様が求められた背景には、航空業界における旅客ビジネスの変化があり、そこにはOTAやメタサーチ、異業種参入という旅行業界の変化も影響しています。
こうした大きな変化はまだ始まったばかりであり、これからNDCをめぐる動きは加速していくでしょう。インフィニとしても常にその動きにキャッチアップし続け、日本のお客様を新しい世界に導けるよう尽力していきます。
※ANA平子社長インタビュー記事:https://www.airlines.iata.org/ceo-interviews/welcoming-the-world-yuji-hirako-all-nippon-airways
- 【第3回】航空会社はNDC活用に積極的か、消極的か
- 【最終回】インフィニはNDCにどう取り組んでいくのか